バイトくんの失恋

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隣のアパートに大学生が住んでいるんですが、今の時代にはめずらしくなかなか愛想のいい男の子で、近所では「バイトくん」と呼ばれて可愛がられています。

「バイトくん」のニックネームの由来は、近所のスーパーや商店街の惣菜屋、花屋さんなどいろんなバイトをかけもちしたりして、元気に働いている姿が印象的だということから名づけられました。

大学の授業が終わると、ほとんど毎日のようにどこかのお店でアルバイトに精を出すバイトくんですが、ここ1週間は姿を見せません。

何かあったのかも?病気で倒れているんじゃないか?商店街の居酒屋で何人かのおじさんやおばさんたちが、バイトくんを心配して井戸端会議をしています。

結局、様子を見に行ってみよう…ということになり、おじさん2人が代表として部屋を訪ねました。

すると…げっそりとしてやつれた彼が戸を開けました。
「どうしたのバイトくん、最近見かけないし、みんなが心配して様子を見て来ようということになっておじゃましたんだけど」

「はい、すいません。ご心配かけて。ちょっといろいろあって、気持ちが沈んじゃって。そのうちに元気になると思いますから…」
いつもは元気者のバイトくんが、声を絞り出して答えました。

「バイトくん、もしかして失恋でもしたんじゃない?」無粋な質問に、目からは涙が流れ始めました。

「この町で暮らすようになってから初めて好きになった女性だったんです。なんとか忘れようとしてるんですが、どうして去ってしまったのかもよくわからなくて気持ちがコントロールできないんです」。

「そっかぁ。それは辛いよね!バイトくん、今夜は俺たちがおごってあげるから、酒でも飲もうよ。今の腹の中にある気持ちを全部出しちまいなよ。俺たち、全部聞くからさ」

と、バイトくんとおじさん二人の酒宴は、長く長く続きました。

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